■新曽妙顕寺1(県文化財に指定した案内板)

 

□埼玉県が「日向記」を県文化財に指定した旨の不可解な記述の案内板が建つ新曽妙顕寺

 

新曽妙顕寺とは、埼玉県戸田市新曽にある日蓮宗寺院。日蓮宗には大本山・京都妙顕寺、本山・佐野妙顕寺と、同名の「妙顕寺」寺号を名乗る寺院があるため、これらと区別するために、関係者の間では、地名をとって新曽(にいぞ)妙顕寺とよばれている古刹寺院である。

なぜここに来ることになったのかと言うと、日蓮真筆の大曼荼羅本尊を調査していく中で、新曽妙顕寺に立正安国会「日蓮真蹟御本尊集」に載っている大曼荼羅本尊、佐渡阿闍梨日向授与の「子安曼荼羅」が格蔵されていることが判明。それでこの新曽妙顕寺を調査していくと、この寺の境内に、戸田市教育委員会が建てた文化財の案内板があることが判明。しかもその戸田市教育委員会が建てた文化財の案内板には、何と佐渡阿闍梨日向が筆記したと伝承される「日向記」が新曽妙顕寺に格蔵されていて、しかもこの「日向記」が埼玉県の文化財に指定されている旨が書いてあることが判明した。

日向記とは、身延山久遠寺二世・佐渡阿闍梨日向が、日蓮の説法を筆録したと伝承する文書で、日蓮宗の「遺文全集」や大石寺版「御書全集」には、「御講聞書」という名前で載っている。

私はかつて日蓮宗の本山貫首猊下に「御講聞書」の真偽について見解を尋ねたところ、日興記とよばれる「御義口伝」も、日向記の「御講聞書」も偽書である、という見解であった。立正大学日蓮教学研究所発行の「遺文全集」にも、「日向記」は日蓮真蹟の欄にはなく、古写本として新曽本が載っている。「新曽本」とは、新曽妙顕寺が格蔵する「日向記」の古写本という意味か。

日蓮宗の見解として、日蓮真蹟とは認めていない「日向記」を、なぜ埼玉県が文化財として指定しているのか。ここが私にとって、大きな関心事であった。

日蓮宗の「遺文全集」には、古写本として新曽本が載っているものの、日蓮宗の本山貫首猊下は偽書だと言う。私も「日向記」は、限りなく偽書に近い文書であると見ている。私が「日向記」を限りなく偽書に近い文書と見ている根拠は、

1 弘安年間に身延山で日蓮が日向に法華経の講義をした史実が確認できない

2 上古の文献・記録に「日向記」が出てこない

3 「日向記」末文の「高祖大聖人御講聞書」とある「高祖大聖人」という言い方への疑問

「高祖大聖人」という言い方は、江戸時代の古文書にはよく見られるものだが、はたして日蓮・日向在世の時代に、日向が「高祖大聖人」という言い方をしたのか、という疑問である。

そういう疑義のある文献を、どうして埼玉県が県の文化財に指定したのか。埼玉県が「日向記」を県の文化財に指定したということは、埼玉県が「日向記」を実質的に真蹟だと認定したことになる。しかも戸田市教育委員会が建てた案内板に、埼玉県が「日向記」を県の文化財に指定した旨が書いてあるとなれば、少なくともこれを読む人は、埼玉県が「日向記」を実質的に真蹟だと認定したと解釈するであろう。

妙顕寺20教育委員会案内板











 

(新曽妙顕寺に建つ戸田市教育委員会の立て看板)

妙顕寺6 











(新曽妙顕寺)

 

 

□日蓮宗が偽書としている「日向記」をなぜ埼玉県が県の文化財に指定しているのか

 

それで、これについては調査する必要ありとして、まず新曽妙顕寺を訪問することからはじめた。

新曽妙顕寺は、埼玉県戸田市新曽にあり、最寄り駅はJR埼京線・戸田駅ないしは戸田公園駅。JR駅前からバスも出ているのですが、私は駅前からタクシーで新曽妙顕寺へ。

新曽妙顕寺は、県道に面した所にあり、タクシーから降車後、境内へ。三門から本堂に向かって参道が伸びている。新曽妙顕寺の本堂は、特に子安堂の名が付けられていて、額にも「子安堂」と書いてある。子安という名は、新曽妙顕寺に格蔵されている日蓮真筆大曼荼羅本尊「子安曼荼羅」に因んだ名のようで、対外的に「子安曼荼羅格蔵」をアピールしているようにも解釈できる。

さて「子安堂の中は、どうなっているのだろうか」と思い、表の開き戸を開けてみると、すぐに回廊があって、奥に仕切りがあり、中は見えないようになっている。本堂の中の仕切りの正面には、「子安曼荼羅」のレプリカが高々と掲げられていました。子安堂のことにも関心が涌いたのでしたが、私としては、子安堂のことよりも、戸田市教育委員会が新曽妙顕寺境内に建てたという立て看板を探さなくてはならない。そっちの調査が先だと思い、子安堂の中は写真を撮るにとどめ、立て看板を探し、境内の中に戸田市教育委員会の立て看板を発見。確かに、ここには新曽妙顕寺格蔵の「日向記」が埼玉県指定文化財になっている旨が記されていた。改めて実際にその記述を見てみると、驚きました。さて、その先はどうやって調査を進めようか。

「日向記」格蔵云々は、この寺院のことであり、日蓮宗のことだから、この寺院の住職に話を聞くのもひとつの方法だが、しかし日蓮宗は「日向記」を偽書としているのは、すでにわかっており、私がむしろ聞きたいのは、「日向記」を埼玉県文化財に指定した埼玉県の見解である。日蓮宗が偽書としている「日向記」をなぜ埼玉県は、文化財としているのか。この部分ですね。

それだったら、埼玉県庁の埼玉県文化財担当部署の係官に直接話を聞いたほうがいい。では埼玉県庁の担当部署とは、どこなのかを調べたところ、これが埼玉県教育局市町村後援部生涯学習文化財課だということが判明。まずは、こちらに電話をしてみることにしました。

妙顕寺16教育委員会案内板






















(日向記を埼玉県文化財だと書いている戸田市教育委員会の立て看板)

 妙顕寺11子安堂

妙顕寺26子安堂





























(新曽妙顕寺・子安堂)